歌声と語音と音楽
  非凡な歌声
  訓練に潜む危険
喉頭と声帯のしくみ
  声帯の協力筋
  喉頭懸垂筋
  練習上の注意点
発声器官のリハビリ 
虚脱したファルセット
声を当てる練習について
支えのあるファルセット
音高のコントロール
頭声によるリハビリ
胸声のトレーニング
  胸声の上限
歌う呼吸について
  声種について
練習のまとめ
A 虚脱したファルセット練習
B 支えのあるファルセット練習
C 声の融合練習
非凡な歌声
稀に、多くの聴衆に深い感動を与え絶賛される非凡な歌声を持つ歌手が出現します。
ただ、そういう歌手たちは必ずしも美声・良い発声とは限らないのです。
逆に、確かに良い発声なのに、聴衆にはさほど感動を与えることができない平凡な歌声の歌手は大勢います。
このような現実から、非凡な歌声とは、整った声帯振動や整った共鳴ではなく、感銘を与える何か特別な要素を持っている声ということになるでしょう。

フースラーは、非凡な歌声の秘密を解剖生理学的に次のように分析しています。


フースラー「うたうこと」より
 発声器官の詳細は「発声器官のしくみ」以降でご紹介しています
 @ そういう歌手の声のひびきは、あるまったく特定のやり方に依存している。たとえば声帯を伸展させるとか、また同時に声帯内筋も緊張させるとか、またこのふたつの力を互いにどの程度に配分させるかというようなことによるのである。 
 A また、そういう歌手の声は常に感情がこもっている。そのわけは喉頭懸垂筋に十分な神経支配があれば、自動的に呼吸器官のすべての運動が参加し、そのことによって声に情緒的な響きが生じるからである。
 B そういう歌手の声帯の縁辺筋はよく発達し且つ神経支配が行き届いていて、まったく特別な、最高に微妙な筋緊張運動が出来る。ふつうは神経支配が行き届いていない。


上記のようなことが出来るには、発声器官のすべての筋肉が活力に満ちたものであることが条件になりますから、現実論としては、非凡な歌手は大方生れ付き発声器官が良好な状態であった人の中から出現する・・・ということになってしまうのかもしれません。
しかし、生まれた時は衰弱気味の発声器官でも、適切なリハビリで健康を回復させて非凡な歌声を得る可能性は誰にでもある、というのがフースラーの研究の結論です。
フースラー追記内容
観衆の評価には、声以外にも、たとえば歌う様子が魅力的であるとか、人柄が感じられるとか、副次的な要素も影響します。歌唱が人前で披露されるものである以上、これらの要素も歌手にとって必要な表現能力のひとつに違いないとフースラーは記しています。
 
参考・引用文献
うたうこと フレデリック・フースラー 著