近年、吟詠コンクールや各教室などにおいて吟詠用のカラオケが使用されることが増えてきた様に思われます。吟詠カラオケを使用する目的は各人異なるかも知れませんが、私個人としましては、第一に合奏という音楽能力を高める手段として吟詠カラオケを利用していただけたら幸いと考えています。
(合奏とは通常は楽器による演奏をいいますが、ここでは吟者にも楽器奏者にも共通して必要な音楽的協調能力を指して合奏能力という言葉を使っています。) |
合奏という音楽能力 |
音楽の始まりは単旋律音楽でした。単旋律音楽とは無伴奏で一つの旋律を歌ったり奏でたりする形態や音楽をいいます。人類の音楽文化が発展したのは単旋律から複旋律法や伴奏法などが発達したことによります。
音楽を独りで行うのではなく、複数の人間が異なる演奏をしつつ一曲の音楽を完成させる・・・このことが実現したことによって音楽はより社会的な文化に成長できたわけです。
無伴奏の独唱や独奏は極端にいえば自分勝手に行うことができますが、合奏するとなるとそうは行きません。互いに合わせあう音楽的コミュニケーションが必要になります。他の演奏者たちに合わせる為には、自分が演奏しながら他の演奏者たちの演奏をも聴かなければなりません。
声楽にもアカペラ(無伴奏で歌う)はありますが、あくまで合奏能力が備わった上でのアカペラです。
吟詠をひとつの伝統音楽分野として発展させようという吟界の目標の達成には、合奏能力の向上はどうしても欠くことのできない条件になると思います。
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吟詠の自由リズムと伴奏 |
生伴奏
吟詠は一定の拍子を持たず、自由リズムで吟じられます。吟詠には音の長さにカウント的な単位はなく、一音一音の長さは吟者の感覚に任せられます。歩くことに例えるなら、行進のように規則的歩行ではなく、各人が好きな歩き方で一つのコースを進むのに似ています。したがって各人が同時にスタートしても途中追い越したり追い越されたり、ゴールに至るタイムもまちまちになります。
このような自由リズムの旋律に伴奏を付ける場合、伴奏者が吟者の自由リズムを感知しつつ、吟の進行に合わせて生演奏をするのが一番確実な方法になります。
ただ、常に伴奏者が合わせていると、吟者に合奏するという意識は芽生え難くなります。
前奏の間は、「間違いなく吟じはじめなければならない」という緊張から伴奏に集中するのですが、吟じはじめると伴奏側が合わせてくれるという安心感から伴奏のことはピッチ(音高)以外ほとんど意識しなくなる・・・生伴奏においてはどうしてもこういう風になり勝ちだと思います。
このことは吟者の問題というより、吟に合わせて生伴奏するという形態が抱える問題であり、吟者の合奏能力を養うという課題においては生伴奏はあまり役立てないように思えるのです。
吟詠カラオケ
合奏能力を養うには、吟じながら伴奏にも集中する練習を重ねれば良いのですが、練習の度に生伴奏を依頼することなど現実的には不可能に近い提案でしょう。
この課題を解決するひとつの手段として浮上したのが吟詠カラオケでした。もちろん吟界において吟詠カラオケが提案された理由はこれだけではありませんが、伴奏曲を作る者としては、様々なアイデアを実現して行くには何よりもまず吟者の合奏能力が必要でした。
ある吟者がある詩を吟じた素録音に従って伴奏を作曲・演奏し、それをカラオケにすれば、そのカラオケはその吟者がその詩を吟じる時の生伴奏と同じです。もちろん、吟者が自分の素録音とは異なる間(ま)で吟じてしまうとカラオケと合わなくなってしまいます。吟詠の自由リズムは感覚的なものですから、熟練した吟者でも常にまったく同じリズムで吟じ得るわけではありません。しかし、カラオケを聴きながらカラオケに合わせて吟じることによって、素録音の時と同じ間に近付けることができます。このことによって吟者は自然に伴奏の中身に耳を澄ませながら吟じる習慣が付いてきます。
カラオケは好きな時に好きなだけ練習することができますので、どんどん合奏能力を高めて行くことできるでしょう。
ただし、このような練習ができるのは企画舞台などに出場できる限られた吟者だけであり、吟詠を志す人皆が経験できるわけではありません。
選ばれた吟者だけではなく、吟詠を学ぶ多くの人達もカラオケ伴奏で吟じることを通じて合奏能力が養えるなら、吟界全体の音楽的能力向上につながると思います。
吟界では、この課題の為に「既成の吟詠カラオケ」が考案されました。 |
既成の吟詠カラオケ |
吟詠を習っておられる方には、既成の吟詠カラオケの存在をご存じの方も多いでしょうし、現在利用されている方も居られると思います。
既成のカラオケは、各吟者の一詩毎の専用カラオケではありませんが、合奏能力を高めたり音楽的感性を養う上で役に立つように、ある程度融通性を持たせてあります。
既成の吟詠カラオケには大きくは3つのポイントがあります。 |
@ 編成楽器 |
使用される楽器の種類と数です。2〜3種類の楽器による曲から15種類以上の楽器が用いられている曲まで様々あります。 楽器も邦楽器、洋楽器、他民族楽器などいろいろな組み合わせがあります。 |
A 曲 想 |
漢詩や和歌の内容は千差万別ですが、伴奏の音楽は言葉のように具体的な表現ではありませんので、曲の雰囲気が詩の内容に逸脱しなければ、複数の詩に兼用できます。 |
B 吟詠タイム |
大抵、伴奏曲の説明書きに演奏タイムが表示されていると思いますので、まずは自分の吟詠タイムに近い曲を選ばれると良いでしょう。もちろん、吟詠を伴奏に合わせる能力が養われれば、どんなタイムの伴奏でも使いこなせるでしょう。 |
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